半世紀遅れた肉感、斬新な諧謔。

読書録 気が向いたら読む 気が向いたら書く 量より質

微笑/横光利一

確かなのは彼の笑顔

 

大戦末期、主人公 梶が知り合った若き天才数学者 栖方は殺人光線を開発しているという。周りは彼を狂人だというが。

 

序盤で、栖方の言っている殺人光線が事実かホラか判りかねる所が、なんともいえない不気味さを漂よわせているけど、所々で描写される栖方の笑顔で作品が重苦しくなく感じる。

 

横光作品は初期~亡妻作品~『機械』くらいまでが好きで、その後の女性向けとも言える作品は、金持ち男女の恋愛話にイライラさせられて読んでないんだけど、この『微笑』は戦後の遺作なのでかなり作風が違う。(というより全作品通してご本人が作風変えてらっしゃる)

 

時代背景を知っているからという部分もあってか、ブルジョワ恋愛小説が建物がいっぱい建った都会なら、この作品はそれらがみんな焼け落ちて地平線がきれいに見える都会。の清々しさがある。

 

栖方の言っていた事は真実なのか?そんな事よりも、彼の笑顔だけは梶にとっては間違いのない真実なんだろうな。

殺人光線は彼の笑顔なのかも。

「けれども、君、あの栖方の微笑だけは、美しかったよ。あれにあうと、誰でも僕らはやられるよ。あれだけは――」

そういえば横光さんが上海から後妻さんに宛てた手紙で

“おまえは怒ってるんじゃないか。怒っているんだろう。毎日ぷんぷん怒っていたらそれだけで不幸だ。側に居る者まで”

みたいな事を書いてるけど、それとは逆に、人の心を射抜く笑顔ってのは幸せな気持ちになれるし、破壊力あるよな。